text by 今井智子 / photo by 三田村 亮

 平安時代に創建されたという経王山文殊院圓融寺の本堂である阿弥陀堂。そこにおわします金色に輝く阿弥陀如来像の視線の先に置かれたグランドピアノを、ぽろりと鳴らして歌い出した中納良恵はちょっと心細そうでちょっと嬉しそうで、ソロならではの緊張感と伸びやかさが漂う歌が響くと,音霊言霊が本堂の中を飛翔しているようであった。

「いつもは森くんがいてるけど」と遠慮がちに言ったけれど、中納良恵の歌を、これほどレアなかたちで聴く事が出来るとは何とも贅沢なことである。例えば「濡れない雨」は『窓景』でもピアノを主にした曲だが、彼女自身の呼吸のままにクライマックスを迎える歌とピアノの共鳴は鳥肌が立った。坂本慎太郎による歌詞が中納の声に似合い、感情の揺れを感じさせながら軽やかに響く「写真の中のあなた」も然り。あるいはスリリングな「I am a piano」や「あくび」など、バラエティに富んだ曲を彼女は的確な表情で歌って行く。

 中盤には『窓景』でも客演したハナレグミこと永積崇が登場、二人のマッタリした会話と暖かみのある歌が場内を和ませた。レコーディングと同じようにギターを弾きながら永積がそっとコーラスを重ねる「Beautiful song」、二人の初共演だった大宮エリーの番組で歌ったという「やつらの足音のバラード」、そしてハナレグミの「光と影」と、歌うほどに二人の声は伸び伸びと響き、歌の力を見せつけた。そして終盤,再び一人で歌った「色彩のブルース」は圧巻だった。エタ・ジェイムスばりのディープな歌で、これほどブルージーにこの曲を歌った事があっただろうかと思ったほど。

 アンコールはエレピとサンプラーを使っての「夢」と「あのね、ほんとうは」。様々なトーンの自分の声をサンプリングして打楽器替わりにしたりコーラスを重ねたり,大変そうだが楽しそうな演奏が曲を彩っていく。そんな作業を目の前で見るのもまた楽しく、誰かといる幸せを歌った曲がひときわ暖かく感じられた。  このライヴを通じて一番感じたのは,自分の声とメロディの響きを聴かせるような多彩な曲と、それを表情豊かに歌う彼女の柔軟さが編み出す新鮮なサウンドスケープだった。声とピアノには無限の可能性があると思わされた。EGO-WRAPPIN'で歌う時とは違う佇まいに彼女自身もまだ慣れていないようにも見えるけれど,シンガー・ソングライター中納良恵の存在はこれから更に確かなものになって行くに違いない。そしてそれがEGO-WRAPPIN'にフィードバックされるのも想像に難くない。2015年の始まりに相応しい、刺激的で充実した一夜だった。

中納良恵「窓景」プレミアムライブ supporting radio J-WAVE「I A.M.」
2015年1月18日(日)セットリスト

1. 幸福の会話
2. 濡れない雨
3. I'm a piano
4. ソレイユ
5. 写真の中のあなた
6. あくび
7. しずく
8. beautiful island(w / ハナレグミ)
9. やつらの足音のバラード(w / ハナレグミ)
10. 光と影(w / ハナレグミ)
11. a love song(w / ハナレグミ)
12. 色彩のブルース
13. 水中の光
14. 大きな木の下

En1. 夢
En2. あのね、ほんとうは